THERE構文

虚辞とよばれるthereを文頭に置くことができる動詞を主動詞としてつかった文 のことをthere構文と呼びます。there構文には動詞に存在を表す動詞を使った存在的there構文や、動詞に移動や運動を表す多様な動詞の提示的there構文やリストの there 構文があります。まずは存在的there構文です。there構文の典型的なものは「存在」を表すbe動詞です。まずthere構文の文脈上の意味をbe動詞を考えてみましょう。

(1)

a. There is a book on the desk.

b. On the desk there is a book.

c. On the desk is the book.

d. The book is on the desk.

there構文は(1a)が一般的な形です。ある場所に何かが存在する時に、その存在物をはじめて文脈にのせる場合に使われます。しかし文脈によりthere構文はいろいろな亜種が可能です。(1b)は場所を表すon the desk there の前に置かれたものです。(1c)は場所を表すon the desk thereの位置に移動して、そこにあったthereが消えたものです。最後の(1d)は存在物である対象のthe book thereの位置に移動して、そこにあったthereが消えたものです。このようないろいろな形は、文脈上で何が前提となり何を焦点化するかによってい ろいろな形へと変化します。日本語では虚辞のthereを使わないために助詞の「は」や「が」を使って上の英文を使い分けています。(1)の英文は次の日 本語と並行的です。

(2)

a. 机の上に本があります。

b. 机の上には本があります。

c. 机の上にあるのは本です。

d. 本は机の上にあります。

このように日本語では英語の虚辞を助詞の「は」や「が」で使い分けています。英文 の(1c)は場所を表す句のon the desk がもともとの主語の位置のthereのところに移動したので場所格倒置と呼ばれています。しかし否定倒置のように助動詞も主語の前に移動するわけではあり ませんから、倒置という用語を使うのは混乱を引き起こすのであまりよくありません。be 動詞以外のthere構文を使う別の動詞と比べてみると否定倒置とは違った振る舞いをしているのが明確にわかります。存在を表すexist, remain, rise, settleや「空間的な状態」を表すlie, dangle, hang, swing や「自然の動き」を表す meander, cut, drop, run, turn, wind や「出現」を表すappear, arise, disappear, begin, flow などの動詞が一般に虚辞のthereをとることができます。これらの動詞は一般に「非対格動詞」とよばれるもので、「意図」によって変化するのではなく、 「ある状態」を表す動詞です。言語学的にはこれらの動詞は主語を欠落する目的語のみをとる動詞であると考えられています。主語がないために虚辞の thereが置かれるのであると考えられています。出現を表すappear でみてみましょう。

(3)

a. There appeared a ghost in the room.

b. In the room there appeared a ghost.

c. In the room appeared the ghost.

d. The ghost appeared in the room.

(3a) appear の一般的な使い方です。(3b)は場所を表す句がthereの前に移動した文です。(3c)は場所を表す句がthereの位置に移動したものです。否定倒 置と異なり(3a)の動詞であるappeared が助動詞と動詞に分解されて、助動詞が主語の前に移動してくるということは起こりません。(3c)は単に場所格の句がthereの位置に移動しただけで す。(3)の英文は次の日本語と並行的です。

(4)

a. 部屋に幽霊が現れた。

b. 部屋には幽霊が現れた。

c. 部屋に現れたのは幽霊だ。

d. 幽霊が部屋に現れた。

このように存在・出現を意味する非対格動詞とよばれる動詞の表す意味を表現すると きにthere構文が使われますが、これ以外にも一般の動詞を変形することでthere構文を使うことも可能です。これは迂言的 there 構文と呼ばれ、主語に代名詞や固有名詞でないものであるならばどのような文でもこの迂言的 there 構文に変換することができます。次の文をみてください。

(5)

a. The fact complicates the situation.

b. the fact that complicates the situation

c. the fact φ complicating the situation

d. There is the fact complicating the situation.

e. Complicating the situation is the fact.

(5a)は存在や出現を表す動詞ではありません。complicate とは「複雑にする」という一般的な他動詞です。この他動詞に関係代名詞のthatをつけると、いままでは動詞であったのがthe fact を修飾する関係詞節になってしまいます(5b)。この関係詞節の関係代名詞をとると、動詞の部分を現在分詞形にするとほぼ同じような意味を表すことができ ます(5c)(5b)(5c)では動詞を事実上形容詞に変えていますから、主節の動詞がありません。このままでは文は成立いたしません。これに虚辞の therebe動詞をつけて新たな主語と述部を作るのが(5d)です。このように一般の動詞も、その動詞の部分を形容詞節に変えて虚辞のtherebe動詞をつけて新たな文にすることができます。there構文はこのように一般の文にも応用することができるのです。(5e)は虚辞thereの位置に 比ゆ的に場所を表すcomplicating the situation という句が移動したものです。このように考えると主語が代名詞以外な場合はどのような場合もthere構文に変えることができるようになります。ただし、 もともとの動詞が非対格動詞であるかどうかによって、there 構文への書き換えが異なってきます。次の例を見てください。

(6)

a. The fact lies before Tom.

b. There is the fact that lies before Tom.

c. There is the fact lying before Tom.

d. Lying before Tom is the fact.

(6c) (6a)の主語と動詞の間に関係代名詞のthatを入れたために文として成立させるために文頭にthere is をつけて書き換えたものです。関係代名詞のthatを削除すると関係代名詞の後の動詞は-ing形にしなくてはなりません。最後の(6d)は動詞の- ing形になって句を(6c)thereの位置に移動したものです。(6d)とは異なり、別の書き換えも可能です。次の例文を見てください。

(7)

a. The fact lies before Tom.

b. There is the fact that lies before Tom.

c. There lies the fact that is before Tom.

d. There lies the fact before Tom.

e. Before Tom lies the fact.

(7b) (7a) の主語と動詞の間に関係代名詞を入れてすべてを名詞句にしたためにダミーのthere is を文頭につけて文を再び成立させたものです。もともとの動詞はlieでしたのでダミーのthere is isのところとliesのところを交換してthereの後の動詞をlies にして関係代名詞の後をbe動詞にしたのが(7c) です。その後、関係代名詞を削除すると動詞は-ing形にしなくてはなりません。is -ing形はbeingです。beingは省略するという規則がありますから、これを省略したのが(7d) です。(7d)Thereの位置にbefore Tomという句を移動したのが最後の(7e)です。変形の出発は(7e)(6d)も同じですが、動詞の入れ替えをするかどうかで異なってきます。同じ文 でも(6)(7)のように変形のしかたによって完成する文が異なってきます。(7)のような変形が可能なのはもともとの動詞が非対格動詞のみの場合です。

つぎに動詞に移動や運動などを表す提示的there構文を考えてみましょう。動詞のところが存在・出現を表すのではなく、移動や運動を表す非能格的な提示的な構文です。存在・出現とは異なり、意味上の主語を動詞の直後に移動すると非文となります。

(8)

a. There came into his mind the ugly idea.

b. *There came the ugly idea into his mind.

c. The ugly idea came into his mind.

また、否定文や疑問文では生じません。

(9)

a. There ran down the street the young boy.

b. *Did there run down the street the young boy?

c. *There did not run down the street the young boy.

さらに従属節の中では非文になってしまいます。

(10)

a. *I thought that there ran down the street the young boy.

提示的 there 構文は動詞に非能格動詞を使っていますが、実際はそのあとの前置詞句と複合されて全体として存在・出現を表す非体格的な動詞句に変換しています。だから動詞の直前に意味上の主語を移動してしまうと、非対格動詞の意味には変わらないので非文となってしまっているのです。また掲示的 there 構文の主語は不定制限がありません。主語は不定冠詞のついた名詞句でも定冠詞のついた名詞句でもどちらでもかまいません。また、いやゆる場所格倒置構文は提示的 there 構文ではつくることがでいません。

(11)

a. *Into his mind came the ugly idea.

b. *Down the street ran the young boy.

(11) は場所格倒置をかけたために非文になってしまった例です。これも全体として非能格動詞となってしまい、複合的な非対格動詞でなくなってしまっているためです。

最後に there 構文の種類を確認しておきましょう。 there 構文には存在を表す existential there と提示的な presentational there と処理的な task there と羅列的な list there があります。

(12)

a. There is a boy in the room.

b. In the room there is the boy.

c. There is a boy to check on.

d. There is a boy, a girl, and their parents.

(12a) existential there (12b) presentational there (12c) task there で最後の (12d) list there となります。 (12a) a boy が定名詞句の the boy になると非文となりますが、他の文では問題になりません。また (12c) have に変えて

(13)

a. I have a boy to check on. ということができます。

Copyright (c) Kazuhiro Miyamae 2002

HOME

inserted by FC2 system