右方移動
最近のミニマリストを中心とする生成文法ではなかなか認めることができない右方移動 (right dislocation) の現象があります。右方移動とはもともと左側にあったものが右側に移動されているものです。この右方移動の代表が名詞句からの外置です。左がわにあった名詞句の一部が右側に移動されているように見える現象です。
名詞句からの外置 (extraposition)
A book appeared by Chomsky.
A book by Chomsky appeared.
1は2の名詞句A book by Chomskyの後半部分が右に移動された文です。前置詞句だけでなく関係詞節であったり、that節であったりもします。
A man who was wearing a wig entered.
A man entered who was wearing a wig.
4は3のa man who was wearing a wigの関係詞節の部分が右方移動したものです。このような外置が可能なのは当然、目的語をとるような他動詞構文の場合は一般に許されない。どれが目的語なのかわからなくなってしまうからである。主語の名詞句の一部を右方移動することができるのは自動詞でしかも「出現」や「存在」を表す自動詞となる。次の右方移動はこれまでのと異なり句全体が移動したので、空白となった部分に虚辞のitが挿入されたものです。
That John quit the job surprised me.
It surprised me that John quit the job.
6は5の主語全体が右方移動したために主語がなくなってしまったので、それを埋めるために虚辞のitが主語の位置に挿入されたものです。
重名詞句移転 (heavy NP shift)
重名詞句移転も右方移動の一種ですが、名詞句の外置とことなり、主語の名詞句の移動ではなくて目的語の名詞句の一部の移動をいいます。目的語の名詞句があまりにも大きくて重いので、その重い部分を右側へ移動することです。
John bought a book that his mother had long wanted to have for his mother.
John bought for his mother a book that his mother had long wanted to have.
8は7の目的語の名詞句の重い部分を右方移動したものです。このような重名詞句転移は2重目的語をとるような動詞の場合は生じます。
場所句倒置 (locative inversion)
場所句倒置は場所や方向を表す句が文頭に現れて主語が動詞の後に置かれる自動詞構文です。
Out of the lake emerged a mermaid.
A mermaid emerged out of the lake.
9は10の変形されたOut of the lake a mermaid emerged. の文の一部分である主語がまるで右方に移動したかのように見える文である。このような場所句倒置も一種の右方移動のひとつと考えられる。いままでみてきた右方移動はミニマリストでは許しがたい移動なので、すべて左方移動がもとであたかも右方移動が生じたように見られるという分析がよくなされている。
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